No. 23 内部へ開かれた家 奥沢の家

設計:岩佐周明

 この土地は奥沢に隣接する。奥沢は地名に沢の字が付くだけあってもとは湿地帯だっただろうと思う。その連なりでこの住宅の地盤補強は相当になさっているだろう。

 もう一つ、この土地で気付いたのはお隣の家。昔、それこそ20年近く前に取材でお邪魔させて頂いたことがある。長谷川逸子さんの初期名作「緑が丘の家」だった。懐かしかった。写真家の藤塚光政さんと一緒に行って、重い本棚を動かさせて貰って撮った。四角い平面を斜めに横切る壁の鮮やかさは忘れられない。それがお隣に健在。重く閉鎖的な感じはまさにあの時代を感じる。未だに名作のオーラを放っている。


 ところでテーマは岩佐さん設計の建築。お隣の緑が丘の家ほどではないにしても、外から見ると、内部はうかがい知れない都市型閉鎖性を備えている。玄関回りのフロストグラスは、夜には確かに外部へ光を漏らすけれど、よく見る建売住宅の居間が覗けてしまうようなオープンさは全くない。ぼくが子どもの頃住んだ何軒かの家も、いま思うとずいぶんオープンだった。町屋もあったし、貸家もあったが。設計という作業が意識化されていない家というのはオープンなのだろうか。
 1960年代からこっち日本の建築家の手になる現代住宅はたしかに閉鎖性をもって都市型化している。とはいえ一昔前の建築と現在の建築の違いは、内部における解放性のありかたにあるような気がする。すくなくとも内部には、その後。かなり開放的な仕掛けが発明されてきているような気がする。奥沢の家もその流れの中にある。

↑写真(2)玄関

 道路側から縦方向に壁が3枚立てられている。その隙間、右手が上下階への移動スペースであり、そのスリットに視線が伸びていく仕掛けが用意されている。じつをいえばは内部から見ると空間の閉鎖性はない。70年代の家とはそこが違うといえるだろう。
 写真(3)は玄関の見返し。ローコスト住宅の狭い玄関まわりはここにはない。来客が意識化されているなと勝ってながら思う。

↑写真(3)玄関の見返し

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←写真(5)

←写真(6)

 写真(7)は1階の奥にある和室。もう「一つの部屋」は常に小住宅のテーマだけれど、これはそれを先取りしているか。ゲストルームとしても位置づけられている。シャワールーム、トイレも用意されている。この日、畳みの上に置かれているのは李朝物の小卓。現代の住宅の畳みの部屋は住居空間であるよりは「儀式空間」として位置づけられていると思うのだけれど、この部屋のディスプレーの仕方は奇しくもそれを示しているような気がする。

←写真(7)

 2階、リビングルーム。吹き抜けがあり、キッチンはクローズド、室内化されている。キッチンの位置、造作は案外にその家の性格を示していると思う。施主のご夫妻とも仕事をなさっているとうかがったけれど、こうした配置、キッチンの閉鎖性は明らかに客を招く、パブリックな空間の位置づけを意識化していると思う。ゲストルームが用意されているのもそういったことが意識化された設計だろう。

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←写真(9)キッチン

←写真(10)リビングの吹き抜け

←写真(11)3階からリビングを見おろす

 3階の階段上部から。壁の配置などがよく見える。視線の延びも意識されているのが分かる。3階は明快なプライベートセクション。

←写真(12)

 バスルーム。この家ほどしっかり水回りを用意された家を知らない。各階にトイレ。全体で3カ所。アメリカなどでは当然のことが、ようやく日本でも具体化されてきたのか。
 気に入ったこの家のプログラミングのもうひとつは、ゲストルーム。玄関から直接アプローチでき、長期の、特に海外の客などにとっては、その家の家族との距離感の取り方は、じつによくできていると感じられるはずだ。
 一種の離れ的な距離感覚が、いかにも使いやすそうだ。こうした距離感のはかり方、設備の用意こそ設計の読みの深さに係わると思う。

←写真(13)

データ
敷地面積/93.5 平米(28.4 坪)
建築面積/55.9 平米(16.9 坪)
延床面積/140.8 平米(42.6 坪)
家族構成/夫婦+子供
構造・基礎/鉄骨3階建・鋼管杭

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